リアルだけど、まったく役に立たない移住の話をします。
東京での会社員生活が15年ほど経ち、このままの生活で果たして良いのかと感じていました。というのも、旅行や出張で地方に行った際は、スーパーで地元の食材を見て惣菜を食べ、地元の人しか行かないような銭湯に入り、常連ばかりの個人経営の食堂や居酒屋に行き、そうやっていろいろな人と接しながら、「やっぱ地方は良いよなあ」とつくづく思っていたからです。
2026年3月上旬に、倉敷市児島地区にパートナーと2人で移住してきました。2人とも都内勤務の会社員でしたが、退職して移ってきました。
移住の経緯をざっくりと説明するとこうです。「東京はなんだか大変だし、地方に移住しないか」と彼女へ提案してみたところ、私と同様に地方出身の彼女も思うところがあったようで、すんなりと「そうしようか」となり、次に「で、どの場(じょう)にする?」という移住地候補探しの話題に。
場とは、競艇場のことです。全国に24場ある競艇場の、どの近くに移住するか、ということです。我々の共通の趣味は競艇で、ホームプールとして近くに競艇場がないと話になりません。ちなみに、東京にいた頃の我々のホームプールは「江戸川」でした。
競艇を軸にした移住ケースは、ほぼ耳にしないのではないでしょうか。いや、競艇ファンとしては、前例はたくさんあるはずだと思っていますが、あまり表立って言いにくいですよね。以前、東京ビッグサイトで行われた移住イベントで自治体の各ブースを訪れた際、競艇場がある場所で移住先を選んでいる話をすると、「その移住パターンは聞いたことがない(笑)」「(候補地選びの)軸がしっかりしているから絶対いい!(笑)」といったリアクションをいただきました
競艇場がない自治体の担当者には、残念がられました(貴重な時間をとらせてしまい申し訳なく思います)。
各地に点在する競艇場の位置をグーグルマップで確認しながら、我々それぞれに合った仕事がありそうで、「ちゃんと」地方で、でも、ほどよく都会へのアクセスもよい場所を見繕ったところ、最終候補には、三重県の「津」、岡山県の「児島」が残り、その両方に視察旅行を行いました。


津も良い場所でしたが、すんなりと児島に決めました。競艇関連のあれこれを除いた主な決め手は、生活や交通の利便性とタコと瀬戸内海でした。
児島地区を車でぐるぐるまわると、きれいなコンパクトシティであることが分かりました。スーパー、ドラッグストア、ホームセンター、その他もろもろの店や施設が児島駅を中心に集まっていて、徒歩でも1、2時間あればいろいろとまわれてしまいます。
それに、倉敷市、岡山市、四国、関西圏へのアクセスも良好です。児島地区で仕事は見つからなくとも、電車や車を使えば仕事探しや通勤はできそうだと感じました(仕事の話は後ほど少し)。
そして食べ物。視察旅では、児島の中心地にある回転寿司屋「いづつや」を訪れました。そこで食べた下津井のタコの寿司に感動しました。にぎりたての寿司にレモンをかけて食べるのですが、歯応え抜群の新鮮な身を噛めば噛むほど、タコの旨味がレモンの汁と合わさり美味いんです。その日はたしか、4、5貫いただきました。ちなみに、いづつやでは、いろいろなネタの大きさと分厚さに驚かされました。

食べ物については、もちろんタコだけが決定打になったわけではありません。例えば、うどんや鳥の唐揚げって、地域ごとの味付けの傾向がありますよね。これは、どこがどこより美味しいといったことではなく、食べる人の好みや相性が重要だと思っています。寿司屋以外にもいろいろと食べてまわって、我々の味の好みに合っていると感じました。



この原稿は、児島に引っ越して1週間ちょっと経った3月中旬に書いています。肌寒いですが、春はもうそこという空気感で、初めて一人暮らしを始めた大学生1年生の時期を思い出します。
東京では新聞社と出版社で、本の編集や雑誌の記者など、活字に関わる仕事をしていました。そういう経験もあり、もともと本や雑誌が好きなので、今後はフリーランスのライターや編集者としてやっていきたいと思っています。
ご存知の通り、岡山市はユネスコ創造都市ネットワーク・文学分野に、日本で初めて認定されています。実際に本に関するイベントが盛んな印象です。このような地域で活動できるかもしれないと考えただけで、ワクワクしてきます。
ただ、とりあえず現在は、有給休暇の消化期間であることや、移住直後で”いろいろある”ということにして、のんびりしています。
例えば、ほぼ毎日、自宅から徒歩1分の海辺にカメラ片手に出掛け、素足になって堤防に座って、陽に当たって、ぼ〜っとしています。「今日の雲の形は丸い」とか、「昨日より波立っている」とか、「あ、でかい鳥が飛んでる」とか、「あ、飛行機雲だ」とか心の中でつぶやきながら、シャッターを切る。なんとも呑気な時間です。
東京で生活していた場所と違って、空が広々としていて、とにかく心地良いのです。今まで、雨を気にする以外では、空を毎日のようにじっくりとながめなかったので、日常のあれこれに細かく目が向くようになったという感じです。自称「空の監視員」として、毎日何度も空をチェックしては、気が向けばレンズを空に向けています。




移住後、児島のスーパー巡りが楽しみのひとつになっています。東京では、車を所有していなかったので、利用するスーパーは最寄駅周辺や徒歩圏内の1、2店舗に限られていました。しかし、児島ではちょっとずつ個性の違うスーパーを車で巡り放題。どの店も柑橘の種類が豊富で、いつも「今日はどれにする?」となっています。また、瀬戸内海などで獲れた新鮮な魚介を驚くほど安く入手できるのも、この上ない贅沢だと感じます。
移住にあたって、長崎の離島に住む年金生活を送る両親に、フリーランスになると伝えたところ、鼓舞されながらも不安がられました。現役時代は公務員一筋だった父からは、それまでの人生で考えたことがなかったであろう「フリーランスの心得」の非常にフワッとした部分を説いていただき、専業主婦だった母からは、それまでの人生で一度も利用したことがないであろう転職サイトやエージェントサービスを紹介していただいている現状です。
少しでも早く安心してもらわねばとは思っていますが、サラリーマンをやめて、東京から気に入った土地へ引っ越してきたこのタイミング(しかも春!)という二度と味わえないかもしれない「今」を堪能しなければなりません。もうしばらくの間は、春の日差しと瀬戸内海の景色に包まれながら、ゆるみきってみようかな、という感じです。(終)
平川 透(ひらかわ・とおる、フリーランス編集者/ライター)
フリーランス編集者/ライター。1988年生まれ、長崎県出身。2026年3月に東京都から倉敷市児島に移住。
【著作権について】
本記事に掲載されている文章・写真等の著作権は著者または権利者に帰属します。無断転載・無断使用を禁止します。
【お問い合わせ】
著者への取材依頼や掲載内容に関するお問い合わせは、「くらしき移住就労サポートデスク」までご連絡ください。
