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移住と同時にフリーランスになった私の苦労3選

 私は、2026年3月に東京都から倉敷市児島に移住しました。児島は岡山県南部の瀬戸内海に面した地区で、瀬戸大橋のたもとに位置します。移住と同時に会社員を辞めフリーランスになり、主に岡山県内でライターや編集者として活動しています。そんな状況ならではの、苦労とおもしろさが入り混じった日常を送っています。その辺りを少し書いてみます。

 はじめにお伝えしますが、現在のところ、私はフリーランスとして順調とは言えません。年収は前年度から激減する見込みです。また、住む場所や仕事が大きく変わるにあたって、計画を緻密に立てていたわけでもありません。「どうなるかわからないけど、やっちゃえ!」といった感じの勢いで移住しました。そんな、半人前以下で見切り発車な人間が書いた仕事についての記事ではありますが、一つの事例として参考にしていただければ幸いです。

※第1回、第2回のコラムもあわせてご覧ください。

私自身について少し

 会社員時代は新聞社や出版社で、編集者や記者(ライター)としてキャリアを積みました。編集者は、本や雑誌を企画して体裁や内容を担保しながら制作を進める仕事(と思う)。ライターは、求められる文章を取材して書く仕事(と思う)。フリーランスになった現在でも、同じ仕事をしています。

 世の中には非常に多種多様な編集者やライターがいて、この記事の内容に関わるのでもう少しだけ補足させてください。私は主に理工学系、自然科学、一次産業といった「かため」の分野に携わってきました。文芸やコミック、一般誌などは経験してきませんでした。

 また、移住するまで岡山に住んだことはありませんでした。そんな岡山には、私がやってきたことをそのまま生かせる会社は非常に限られているように感じ、求人も見つかりませんでした。つまり、人とのつながりや土地勘もなく、すんなり入り込めそうにはないことがわかっていました。ちなみに、私が移住候補地として検討していた県の中では、岡山がもっともメディアやコンテンツ制作が盛んな印象です。

 そんな状況で、フリーランスとして活動してもうすぐ半年になろうとしています。大変ありがたいことに、徐々に仕事の量も種類も増えてきていますが、苦労していることがいろいろとあります。ここでは、「岡山のことを知らない」「書き方が大きく変わった」「営業活動」の3つについて書いてみます。

岡山のことを知らない

 仕事で初めてお会いする方からよく、「まずは岡山のことを知ってもらって」「私たちの仕事を知ってもらって」と言われます。本当にその通りだと思います。岡山で制作される本や雑誌などは、主に岡山の方に向けたものです。コンテンツの地産地消。編集者としてもライターとしても、岡山についてどれだけ知っているかで仕事の効率や質が変わってくるはずです。

 実際の取材で苦労していると言いますか、完全に不足していると感じているのが、その土地で暮らすことで得られる「文脈」です。取材対応者が「〇〇町では〜」「10年くらい前だったら〜」「ほら、前の市長が〜」といった発言をされたとき、その場所の情景も、「含み」のようなものも、キャッチできていないはずなのです。私が取材対応者と近いイメージを思い描くことができれば、次の質問でもう一歩踏み込めるかもしれません。取材には「流れ」「リズム」のようなものがあるので、一つひとつ細かく聞いていくことは現実的ではありません(少なくとも私にはできません)。「うわぁ、それ何だろう……」などと思いながらメモしています。

 移住前後で、『晴れの国おかやま検定公式参考書』を買って岡山の歴史や風土などを学び、地域ニュースを見るようになりました。どんな産業が盛んで、どんな会社や大学があるのかなども、大まかにですが頭に入れました。でも、それでも足りません。時間をかけて根付いていくしかないなと思います。そういえば、東京に住んで5年くらい経って、ようやく「ちょっと慣れたかも」と感じたので、岡山でもそれくらいの時間が必要でしょう。

書き方が大きく変わった

 どのような人に向けるのかで、書き方が大きく変わります。地域や想定読者が変わったことで、想像以上に書き方で苦労しています。前述した通り、以前は主に「かため」のジャンルを扱っていました。いわゆる専門家向け、業界向けです。一般向けの内容を手掛けるときでも、例えば「爬虫類の分類」「人工知能の歴史」など、分野と伝える内容はおおよそ定まっており、説明する順序や言葉遣いは、慣れれば扱いやすいものでした。現在いただく仕事の中には、これまでに積み上げてきた書き方や感覚がまったく通用しないものがあります。

 岡山の特産品「清水白桃」を例に、どれだけ違うかをお見せします。

会社員時代に書いていた文章例 ※架空の文章です。

「2026年7〜8月市況総括 清水白桃」
7~8月の岡山市中央卸売市場では、平均相場1,200円/kg(平年比+20%)、総入荷量120.0t(同-20%)となった。卸筋によると、猛暑日が続いた影響で生育が遅れ、お中元需要がピークを迎える時期の入荷量が例年より減少。相場は強含みで推移した。贈答用の「ロイヤル」「キング」を中心に引き合いが強く、平均相場を押し上げたという。

最近書いている文章例 ※架空の文章です。

「JA全農Aさんに聞いた! 清水白桃、こんな食べ方もおすすめです」
 岡山を代表する夏の味覚、清水白桃。冷やしてそのまま食べるのが定番ですが、実は「ひと手間加えてもおいしい」とJA全農おかやまのAさん。
 おすすめは、桃の天ぷらです。くし形に切った桃に衣をつけ、桃が温まりきらないくらいの短時間で揚げます。仕上げに塩を振れば、清水白桃の濃厚な甘みが引き立つ一品に。「揚げたてを食べるのがおすすめです」とAさん。
 もう一品は、鯛と合わせたカルパッチョ。薄く切った桃と鯛の刺し身を皿に並べ、オリーブオイルと粗塩をかけるだけで完成です。「濃厚な甘みとさっぱりとした白身が、意外とよく合います。日本酒のお供にも最適ですよ」。

※繰り返しますが、架空の文章です。

 どちらも桃について書いていますが、使っている言葉がかなり違いますよね。前者は、青果の流通関係者に向けて情報提供することを意識して書きました。一方で後者は、岡山県内の清水白桃に馴染みのある一般消費者を意識して書きました。私は後者のタイプの文章を、仕事で書いてきませんでした。経験が乏しいため、後者の書きっぷりが正解なのかどうか、自分で評価もできません。

 「ライティングあるある」かもしれませんが、一般向けにやさしく書く方が難しいと感じます。一般向けの文章の方が、「型」や「語彙」を使い分ける必要があると思っています。業界や専門家向けには専門用語で一発で済むものを、一般向けは一個ずつほどいて説明しなければなりません。実際に最近、「人間力」「惣菜とは」「スパイスカレー 定義」「橋 たもと どこ」といった、身近なんだけど、きちんと調べたことのない語を、辞書やインターネットで確認することが増えました。

 また、これまで岡山に住んだことのない私にとっては初耳でも、岡山県民にとっては当たり前の情報があります。そんな「新人」の感覚のままで書くと、読み手にとっては、どこかピントが外れたものに感じるでしょう。

 実際に、「かたい」「ここはそんなに詳しく書かなくて大丈夫」といったご指摘をいただき、修正することが結構あります。対応していくことに苦労しつつも、自分の知識や、文体、語彙が増えるに従って、成長を感じることができています。

 実は、新聞社から出版社に転職した際も、似たような大きな変化があったのですが、今は発注をいただいている身で、添削してくれる上司や同僚はいません。桁違いの緊張感です。

営業活動

 自分を売り込んだ経験が、これまでありませんでした。岡山の方とのつながりもありませんでした。移住前にあったいわゆる「見込み」は2社。1社は友人のB君、もう1社は移住前にコンタクトを取り、移住前後で何度も会っていただいた岡山市の会社でした。どちらも移住後にすぐ仕事を振ってくださっただけではなく、私の得意分野も考慮してくれたので、今でも感謝してもしきれません。

 でも、その2社だけではもちろん「食えない」。引っ越しが落ち着いてしばらくすると、岡山県内でライティングや編集の外注先として売り込めそうな会社を調べ、メールや郵送で自分のポートフォリオ(実績紹介資料)を送りました。

 連絡した翌日に返事が来ることもあれば、ひと月ほど経ってから連絡が来ることもあります。まずは「お互いのことを知るために、一度お話ししましょう」という流れが多いです。そうやって、打ち合わせや仕事の機会をいただきました。印象的な場面は、会ってくださった方が、徐々に共通語から岡山弁に戻っていくことです。「安心してくださっているのかな」などと勝手ながら思います。会ってくださった皆さんが、ポートフォリオを想像以上に細かく見ていることには驚きでした。「実績、ちょっと書きすぎていたかな」と思っていましたが、「ちゃんと書いておいてよかった」に変わりました。

 営業活動に関してもっとも難しく悩ましいのが、「行く先々で出会った方と、どう接するか」です。「この人と仕事でご一緒できる余地はありそうか」「今、自分の仕事の話をしても大丈夫なのか」「一度営業はしたが、次はいつどのように営業するのが適切か」など、会社員時代には考えもしなかった視点を持つようになりました。そして、これは私が逆の立場だったら「売り込まれた。めんどうだな」と感じるコミュニケーションです。そういった自己矛盾と向き合いつつ、その場の流れなどを見るようになりました。運良く仕事の話に進むと嬉しいですが、その前段階のアクセルとブレーキの塩梅をまだつかめていません。自然に、適切に、営業できるようになりたいものです。

 時々、県内外のつながりから、「こんなのできる?」と、思わぬ仕事の相談を受けることがあります。例えば、簡単なデザインや写真撮影、ウェブサイト制作です。新しいことに挑戦でき、仕事の幅を広げる絶好の機会です。多少不慣れでも全力で対応したくなりますね。しかし、次に「いくらくらい?」と言われることがあり、戸惑ってしまいます。そうした仕事をしたことがないだけでなく、相場もわからないからです。今のところ、その辺りを正直に伝え、話し合って価格を決めていくことが多いです。

 ……以上、こういった感じで会社員時代には味わったことのない苦労やおもしろさを感じています。半人前以下の立場で言うのもなんですが、実際にフリーランスを名乗って、人に会って、岡山で仕事をして初めて、具体的にどんな需要があるのか、自分の強みや弱みがどの辺にあるのかが少しずつ見えてきました。

 ここまで読んで、「大丈夫かこの人」と思われたかもしれませんが、私自身は移住してフリーランスになるという選択をして良かったと思っています。もちろん、不安でいっぱいではありますが、今まで味わったことのない充実感や時間的ゆとりを得られています。児島の土地が気に入り移住しましたが、岡山の方々とのつながりが深く、広くなっていくにつれ、この地で自分ができることを精一杯やっていきたいと思うようになっています。さて、フリーランスとして、どこまで行けることやら!

【関連記事】第1回、第2回のコラムもあわせてご覧ください。

ライターの仕事道具と関わった媒体
仕事道具と、ライターとして関わった媒体例(右下)
ノートPC、ネット環境、電卓、ボイスレコーダー、ノート、筆記用具、カメラ、辞典に加え、取材の資料とメモがあれば、だいたいの仕事はできる。一見すると、働く場所は選ばない。しかし私の場合、執筆の合間合間で歩き回りたいし、資料や本を乱雑に広げるし、紙に出力したいし、進行中の仕事を目に付くところに出しっぱなしにしたいので、カフェなどではムリ! 主な職場は自宅のリビング。身軽な装備で軽快に仕事をする編集者やライターがうらやましい!

平川 透(ひらかわ・とおる、フリーランス編集者/ライター)

フリーランス編集者/ライター。1988年生まれ、長崎県出身。新聞社や出版社で書籍の編集者や雑誌の記者などを経験。2026年3月に東京都から倉敷市児島に移住し、現在に至る。

個人サイト:https://0119.jp/


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